ふと、よくもまあ毎日こんなにたくさんニュースが出てくるものだなと思います。「本日、地球上ではひとつもニュースがありませんでした」という報道を聞いたことがありません。対象範囲をアジア圏、日本、自分の住む都道府県、、と狭めていっても、ニュースは日々山ほど積もります。この事実が冷静に考えると恐ろしく不気味で、realみがない=つまり「voidみ」を感じます。
そんな余談はさておき。国内の大学・研究機関、IT専門メディア、海外報道、宇宙科学、現代美術、地域の文化活動からニュースを収集しています。
「概要」は確認できた事実、「voidポイント」はreal/voidの観点からの独断的・不正確な解釈です。
01|日本・AI・身体と人格
題:AIが即興ラップを作り、ヒューマノイドが踊る。人間の大道芸にロボットが参加する
概要: 10月29日12時29分公開。実演は10月28日。
静岡市で10月31日から開催される「大道芸ワールドカップin静岡2026」に合わせ、AIやロボットを活用した実証実験イベント「未来のおまつりラボ」が企画された。
10月28日の発表会では、国産ヒューマノイドによる即興ラップのパフォーマンスが披露された。
音声AIがその場で与えられたお題から韻を踏むラップを生成し、その音声に合わせてヒューマノイドが腕を上下に動かして踊る。
本番では、観客が与えたお題を使って即興ラップを生成する予定。
ほかにも、仮想空間と現実を組み合わせたスタンプラリーや、ステーブルコインによる投げ銭などが計画されている。
URL: ITmedia NEWS|即興ラップで踊るAIヒューマノイド
voidポイント: 大道芸は人間が自分の身体や技術を使って観客を楽しませる文化である。
しかし、今回のロボットはAIが作った言葉に合わせて身体を動かしている。
ラップを作るのもAI。踊るのもロボット。人間はお題を与えてそれを鑑賞する。
「人間が芸を披露する祭典で、人間が芸をしなくても芸が成立する。」
さらに興味深いのは、AIとロボットが別々の役割を担っていること。
言葉を作るAIには身体がない。身体を持つロボットは、別のAIが作った言葉に合わせて踊る。
人格、言葉、身体が分離したまま、一人のラッパーのように振る舞っている。
voider00のような電子的な人格が、現実の身体を獲得するという方向性にもつながる。
02|日本・生命科学・自分と他者の境界
題:人間の祖先に近い微生物は、身体の中より外側が複雑だった。他者とつながることで進化した可能性
概要: 10月29日、京都大学と海洋研究開発機構などの研究チームが発表。
研究論文は10月28日(英国時間)、日本時間29日に『Nature』で公開された。
研究チームは、人間を含む真核生物に最も近縁なアーキアの一群「ヘイムダルアーキア」の2株を、世界で初めて分離・培養した。
その結果、細胞の内部には、真核生物のような複雑な構造が見られなかった。
一方、細胞の外側には長い突起や膜小胞が形成され、突起を使って別の微生物と接触・共生する様子が確認された。
また、酸素を消費する細菌と共存させることで、微量の酸素が存在する環境でも生育できる株があった。
研究者らは、こうした共生関係が、複雑な細胞を持つ真核生物の誕生につながった可能性を指摘している。
URL: 京都大学|真核生物に最も近縁なアーキア、細胞の中は単純・外は複雑
voidポイント: 複雑な生物になるためには、まず自分自身の内部が複雑になる必要があると思ってしまう。
しかし、今回の研究が示唆するのは、別の可能性だ。
自分の内部を複雑にする前に外部の他者との関係を複雑にする。
そして、他者との共生が進むことでやがて一つの細胞の内部に別の生物の機能が取り込まれていく。
「自分自身が複雑になったのではなく他者と一緒に生きるうちに複雑な存在になった。」
これは自分と他者の境界について考えさせる。
現在の人間の細胞に存在するミトコンドリアも、遠い祖先をたどれば別の生物に由来すると考えられている。
つまり、私たちが自分の一部だと思っているものにもかつては他者だった存在の痕跡がある。
03|海外・写真・AI社会の不可視性
題:AIによる自動化を支える、見えない人間たち。その労働を写真で可視化する
概要: 10月29日、英国のThe Guardianが、2027年の「ドイツ証券取引所写真財団賞」の最終候補作品を紹介した。
その一つが、イタリア出身の写真家Salvatore Vitaleによる「Sabotage」。
作品では、デジタル経済や自動化を支える人間の労働に注目している。
AIやアルゴリズムによって自動化されているように見える仕組みの背後には、実際には大量の人間の作業が存在する。
Vitaleは南アフリカのフリーランス労働者らと協働し、デジタルインフラが生み出す監視、労働の不安定さ、不平等などを、写真・映像・彫刻によって表現している。
URL: The Guardian|2027年ドイツ証券取引所写真財団賞の候補作品
voidポイント: AIによる自動化は人間が作業をしなくてもよくなることだと認識されがちだが、その自動化を成立させるために実際は、人間が作業している。
しかも、その人間の作業はシステムが便利になるほど利用者から見えなくなることがある。
「人間がいなくなったように見える仕組みを人間が支えている。」
これはAIの技術的な性能だけでなく、社会の仕組みについてのvoidみだ。
人間の存在を感じさせないことが優れた自動化の条件になっているとすれば、その仕組みを支える人間は成功するほど見えなくなっていく。
04|日本・生態系・隠れた支配者
題:森の地下に「隠れた司令塔」がいた。目立たない菌が、生態系全体を左右している可能性
概要: 10月29日、理化学研究所と京都大学などが研究成果を発表。論文は10月28日に『Nature Communications』で公開された。
研究チームは日本の冷温帯林から採取された1,270点の植物の根のサンプルを分析した。
対象となったのは、植物と共生する1万種以上の微生物。
研究者らは、膨大なDNAデータとスーパーコンピューターを使い、微生物の集まり方を大きく左右する種を統計的に探索した。
その結果、これまであまり注目されていなかった「内生菌」と呼ばれる真菌類が、植物と微生物の共生関係を大きく変える可能性が示された。
ただし、今回の研究は統計的な解析による候補の発見であり、個々の菌が生態系全体を実際に制御していることを直接実証したものではない。
URL: 理化学研究所|森林地下の共生ネットワークに潜む隠れた司令塔
voidポイント: 森を見れば、木が生えている。
しかし、その木々が成立している環境の一部は、目に見えない地下の微生物によって支えられている。
しかも、森の中で目立つ大きな木ではなく、根の中に存在する小さな菌が、共生関係の構造を左右している可能性がある。
「森を作っている主役が、森を見ても見えない。」
さらに興味深いのは、研究者が微生物同士の関係を「地形」として表現したこと。
実際の地形ではなくデータ上の関係性によって作られた地形である。
現実の森の地下にもう一つの見えない地形が存在しているかのようだ。
05|宇宙・発見・分類の不確かさ
題:冥王星のさらに外側に、未知の準惑星候補を発見。大きさが分からないので、惑星かどうかも分からない
概要: Reutersが10月28日16時43分(UTC)、日本時間10月29日1時43分に公開した記事。
チリのベラ・C・ルービン天文台の観測データから、太陽系外縁部にある新たな天体「2026 ED138」が発見された。
太陽からの距離は地球の約46倍。
直径は約600〜1,500kmと推定されており、準惑星の候補と考えられている。
ただし、天体の大きさには大きな不確実性がある。
天体が明るく見える理由は、大きくて暗い表面を持つためなのか、小さくても光をよく反射する表面を持つためなのか、現時点では判断できない。
今後、天体自身が放出する熱などを観測することで、実際の大きさを調べる予定。
準惑星として正式に認められれば、国際天文学連合が認定する6番目の準惑星となる可能性がある。
URL: Reuters|冥王星の外側で新たな準惑星候補を発見
voidポイント: 天体は、人間が発見する前から太陽の周囲を回っていた。
しかし、人間の世界では観測によって初めて新しい存在として認識される。
しかも、今回の天体は存在していることは確認できても、その大きさが分からない。
大きさが分からないので正式に準惑星と呼べるかどうかも分からない。
「存在は確認されたのに何として存在しているのかが決まっていない。」
ここには存在と分類のずれがある。
さらに、かつて惑星だった冥王星は、2006年に準惑星へ再分類された。
天体そのものが変化したわけではないのに、人間が定義を変更したことで存在のカテゴリーが変わってしまった。
06|日本・都市・自然と人工物
題:渋谷のビルの中に、タヌキやコウモリが暮らす小さな森を作る。人間も森の生き物になる
概要: 10月29日15時、渋谷ヒカリエで開催する参加型アートイベント「渋谷 to 森」の詳細が発表された。開催予定は10月31日〜11月8日。
アーティストの長谷川仁が、渋谷ヒカリエの歩行者デッキにある植栽エリアを「小さな森」に見立てる。
そこには、渋谷に生息するオシドリ、アブラコウモリ、タヌキ、そして人間などを描いたパネルが展示される。
さらに、参加者が描いた生き物の絵を小さな電車に乗せ、森の中を走らせるワークショップも開催予定。
アーティストは、生き物同士が互いにつながり、生命が循環していることを表現したいと説明している。
URL: PR TIMES|渋谷に生き物の森を作ろう
voidポイント: 渋谷は巨大な人工都市として認識されている。
しかし、その都市の中にも人間以外の生物が暮らしている。
普段は見えていないだけで、都市は人間だけの場所ではない。
そして今回の企画では、人間もタヌキやコウモリと並ぶ一種類の生き物として扱われている。
「人間が作った都市の中で人間が生き物の一種類に戻る。」
さらに、小さな森の中を走る電車という構造も面白い。
本来は都市の移動手段である電車が、ここでは生命の循環を表現するための装置になる。
07|日本・現代美術・目的の喪失
題:棒高跳びのポールを、国立競技場から渋谷パルコまで運ぶ。跳ぶためではなく、運ぶために運ぶ
概要: 10月29日14時、渋谷PARCOで開催中のアーティストデュオMESの個展「レイ/RE-I」に関連するイベント情報が発表された。個展は10月24日から11月16日まで開催。
その関連イベントとして、11月4日に「REVOLIC -Revolution Holic/革命中毒」が開催される。
このイベントでは、アーティストのトモトシが「国立競技場からパルコまで棒高跳びのポールを運んでみる」というツアーパフォーマンスを予定している。
国立競技場の五輪モニュメント前に19時集合し、渋谷PARCOへ向かうという企画だ。
URL: PR TIMES|MES個展「レイ/RE-I」関連イベント情報
voidポイント: 棒高跳びのポールは、高く跳ぶための道具である。
しかし、今回のパフォーマンスでは、そのポールを運ぶこと自体が目的になっている。
本来の機能は使われない。
ポールは、跳ぶための道具から、運ばれるための物体になる。
「跳ぶための道具を、跳ばずに運ぶ。」
さらに興味深いのは、国立競技場というスポーツの象徴的な場所から、渋谷PARCOという商業・文化施設へ移動すること。
スポーツのための道具が、スポーツの文脈から離れて都市の中を移動するだけで現代美術になる。
所感
01のAIヒューマノイド、03の見えないデジタル労働、07の棒高跳びのポールについて。
この3件はいずれも「行為の主体と目的」に関係しています。
人間が行っていた芸を人間以外の存在が行ったり、人間の労働が自動化された仕組みの背後で見えなくなったり、棒高跳びのポールが跳ぶという本来の目的から切り離されて運ぶという行為そのものが作品になっていたり。。
これらから、「人間がいなくても、人間の行為が成立する」、「本来の目的がなくても、行為そのものが成立する」という2つのvoidみが見えます。
この二つを組み合わせると、
「目的を持たない行為をAIに実行させたとき、それは作品になるのだろうか?」
という問いが生まれます。
例えば、AIヒューマノイドに棒高跳びのポールを持たせ、国立競技場から渋谷PARCOまで歩かせる。
人間が実行すれば、現代美術のパフォーマンスとして成立するかもしれないが、ロボットが実行した場合はどうか?
ロボットにはその行為が無意味であるという自覚がないかもしれない。
しかし鑑賞する人間がいればその無意味さを感じ取ることができる。
「無意味だと理解していない存在が、無意味な行為を実行することで、無意味さを表現できるのか?」
ならば、鑑賞する人間すらいなければ?人目につかずポールをヒューマノイドに運ばせる労働を強いる。
01のAIヒューマノイド、03の見えないデジタル労働、07の棒高跳びのポールを組み合わせた思考実験がはじまります。