体調管理や採血等処置を行ってくださる担当看護師は、晩~翌夕の一日交代制である。だから長い目で見ると、多くの看護師が部屋を訪れては数十%の確率で印象的なセリフを残して去ってゆく、という一連のくだりが幾度となく繰り返されることになる。
中でも特に印象的だったセリフを3つ選んで記録する。初めに断っておくと、多分僕以外の第三者が聞いてもあまり心は動かない。そこで得られる「虚しさ」を是非味わっていただこう。
指先の酸素濃度はね、人生の点数だから。
パルスオキシメーターを使って指先で血中酸素濃度を測定したら「100%」と表示された時、頼もしいベテラン看護師(その病棟の副看護長を勤めていた)から、真剣なトーンで
「おお、素晴らしい。指先の酸素濃度はね、人生の点数だから。私はいつ測っても98、99で、100は出ない。」
と言われた。
ありがとうございます!と答えたあとすぐ、「ん、酸素濃度が人生の点数…?」と引っかかった…のだが、特にボケた様子ではなかったので、まあ何かしら褒めようとしてくださって咄嗟に出たセリフだろうと思い、特に何も言わなかった。
ただ、このセリフに深い意味や経緯が込められていた可能性が微かに残ってはいるよなあ、人生いつも結構高得点なんだよって事かな……等と考え出したのは退院後、というか今。
やっぱりあの時聞いてみたら良かった。
ちなみに、その翌朝、同じ看護師さんに測定してもらった指先酸素濃度は98%。はい2点落としたー。
…看護師、ノーコメントだったな。多分昨日の自分の発言など忘れているとは想うけど、この時僕が「98、人生の点数か。」と呟いていたら、何か違う展開はあったのか。少し気になる。
OKです!
若手の看護師さんからしばしば聞いたセリフ。文字に起こすと、なんて事ないセリフ。でも印象に残った理由は、ズバリ「ニューヨーク嶋佐のOKです!だったから。」
キングオブコント2021決勝でも披露されたニューヨークのネタで登場する「OKです!」。
日本一元気な朝番組こと「ラヴィット」では、2022年の夏時点でも未だに、超流行ギャグかのように擦られているネタだということまでは知っている。
それとイントネーションが抜群に近かったんだよなー。あれはどうなんだ、確信犯(誤用警察の来訪は遠慮しております)だったのか?いや冷静に考えたら、目元にテープも貼っていないし片手サムズアップ👍🏻もしていなかったのでその可能性は低いのだが、ちょっとあまりにも声の雰囲気が似ていたので、患者に(あるいは他の看護師とかにもやってる?)バレないかチャレンジでもしていたのかなという疑念が消えない。
あれは一体
何だったのでしょうか……💀👿🎃👻
コンピュータサイエンス専攻って事は、コンピュータ持ってるの?
若手の看護師さんに今は大学院生だと伝えたら、どんな研究をしているのかを聞かれた。自分の直接的な研究テーマである自然言語処理分野をわかりやすく伝えるには時間がかかるし、こういう場繋ぎ間埋めトークの時はひどまずオタクっ屁を漂わせぬザックリとした説明がいいので、
「専攻はコンピュータサイエンスで、プログラミングとかAIとかをやってます」
と答えたら
「コンピュータサイエンス専攻って事は、コンピュータ持ってるの?」
と聞かれて、反射で
「机の上、ここにありますwwwww」
と言った。すごいヘラヘラしながら。このヘラつきが、物凄く相手をバカにしている感じになってる気がして、咄嗟に
「いや、なんだか元気になった気がします」
と、ただ自分がスッキリするためだけのナゾ弁明を先程の「wwwww」に覆い被せるように付け加えた。
いやーでも、今までに出会ったことの無いタイプの質問だったから。実際バカにするどころか寧ろ「すげー」と思ってしまった、 、、「すげー」って感想もきっと違うし失礼だけど。
コンピュータ専攻の自分がコンピュータを持っているというのは当然周知の事実だと思うその過剰な自意識、奢り昂り言語同断。あるいは、場繋ぎ間埋めトークが如何に「場繋ぎと間埋め」でしかないかの確認、完了しました。実際、この会話後ちょっと体調良くなったから、感謝しかない。
……と、印象に残ったセリフを選定してみたわけだけど、こうなるんだな。シチュエーションが少し変わればコロッとインパクト薄まりそうなことばばかりが印象に残っている。
ことばって本当文脈次第で、儚い。
そしてこの虚しさが、僕は非常に好きです。